横浜市南区弘明寺のアレルギー科・耳鼻咽喉科
いでい耳鼻咽喉科医院

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ベートーヴェンの難聴と名曲

ベートーヴェンには、両側の難聴があった。そして、その難聴は徐々に進行していき、最後には聞こえなくなってしまったと言う。聞こえなくなってからも、数々の素晴らしい名曲を生み出していった。

ベートーヴェンの難聴は、耳硬化症という病気であった可能性が高い、と今では考えられている。耳硬化症は、白人に多く、日本人には珍しい病気で、当院でも1年間に2人くらいしか診ることがない。耳硬化症は、中耳にあるアブミ骨周囲が硬くなり、音を奥に伝えられなくなり、徐々に難聴が進んで行く。両耳におこることもある。現在では、大抵の人は手術で治すことが可能だ。でも、当時は、病気は不明で、治療は全くできなかった。

ベートーヴェンは口にくわえたタクトをピアノに接触させて、歯から側頭骨を振動させた。側頭骨の中には内耳があるため、内耳に異常が無ければ、音を聞くこともできる。

現在でも、耳鼻咽喉科で行う標準純音聴力検査では、通常の聴力検査以外に、骨導聴力検査も行う。骨導聴力検査は耳の後ろの骨から音を入れて検査をする。骨導聴力検査で異常が無ければ、内耳より奥は正常と判断する。


骨導補聴器や骨導イヤーホンは、その仕組みを応用している。

骨導補聴器は、内耳より外側が壊れている場合に、側頭骨から音を入れ、直接内耳に振動を伝える。

骨導イヤーホンは、若い人でスポーツをする人に好まれている。利点は、音楽を聞きながら、周囲の人の声や車などの音も聞こえること。欠点としては、低音がやや小さくなり、音が不鮮明になること。

難聴になったベートーヴェンが作曲する場合、特に低音の振動が骨にハッキリと伝わるビートが繰り返された音こそが大切になる。ベートーヴェンの名曲である交響曲第五(運命)や年末に歌われる交響曲第九(歓喜の歌)は正にその典型だ。

ベートーヴェンの名曲がベートーヴェンらしいところがそこにある。同時代の他の作曲家とは明らかに違う。

作曲家にとっては、聞こえなくなることは致命的。ベートーヴェンは、それでも、何とか工夫を重ねながら、決して諦めず、自分が追求する作曲に情熱を注いだ。

難聴だから、出来たこと。

とても大切なものを失った時には、誰しも絶望的になる。それでも、新たに出来ることもある。人生、そこが大切だ。